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2009.08.08

 最近になって『長期優良住宅』という言葉をよく聞くようになりました。一定の条件を満たした住宅は補助金を受けたり税の特例措置等が受けられるというものです。次世代に残る良質な住宅を普及させる目的で法律が作られ (H21.06.04施行) それに伴って生まれた制度で、簡単にいえば家を長持ちさせて廃棄物を減らし、建替えにかかる費用も減らして、環境に配慮した豊かな暮らしをしようという国の提案です。

 では『長期優良住宅』に求められる性能とはどんなものでしょうか? 一戸建の木造住宅を例にとり概略をまとめてみました。全部で9項目あります。

劣化対策

床下と小屋裏に点検口を設置。点検用に床下空間を33センチ以上確保すること

耐震性

建築基準法レベルの1.25倍の強度にすること

維持管理・
更新の容易性

構造に影響を与えずに配管のメンテナンスができること

可変性

将来の間取り変更に応じて、配線・配管のためのスペースを確保すること

バリアフリー性

廊下や階段、出入口などに必要なスペースを確保すること

省エネルギー性

平成11年度省エネルギー基準に適合すること

居住環境

景観等、周囲と調和が図られること

住戸面積

75平方メートル以上

維持保全計画

構造・雨漏り・給排水の点検時期を定めること (10年以内)

 

 これらの条件をすべて満たして初めて「長期優良住宅」であるとお墨付きが出ます。設計する立場からするとそんなに難しいことでないと思う項目もあれば、工夫が必要な項目もあるかと思います。
 この連載では上記項目中の『6.省エネルギー性』について考えていきます。ここで求められる性能…「平成11年度省エネルギー基準に適合すること」とは一体どんなことなのでしょうか? 

 

 省エネルギー基準に適合するには2種類の方法があります。下記A、Bどちらかに適合すればOKです。

[性能基準]

熱損失係数(Q値)において適合すること

[仕様基準]

各部位(屋根または天井・壁・床・基礎・開口部)の断熱性能において適合すること

 

 さて、ここでようやく主題である“Q値”という用語が出てきました。Q値は熱損失係数ともいい、建物の断熱程度を表す指標です。単位は W/m2h℃、室内外の気温差が1℃ある状況が1時間続いたとき、床面積1m2あたりに建物から逃げる熱量を示しています。つまりQ値が小さいほど逃げる熱量が少ない=断熱がよい建物といえます。

 上記A、Bのうち、基準AはQ値を【表1】にあげる数値以下となるようにせよ、というものです。表中の[地域の区分]は詳しく定められていますが、簡単にいえば I地域=北海道(寒)でVI地域=沖縄(暑)です。表を見るとI地域の数値が小さくなっています。つまり寒いところはよりたくさん断熱をしてね、というわけです。

     【表1】  A [性能基準] …Q値における基準値   単位:W/m2h℃

地域の区分

I

II

III

IV

V

VI

一戸建住宅

(Kcal換算値)

1.6

(1.376)

1.9

(1.634)

2.4

(2.064)

2.7

(2.322)

2.7

(2.322)

3.7

(3.182)

 

 しかしそういわれても、では設計した建物のQ値がいくつか、というのは大抵簡単にはわかりませんよね。そこで国交省はもうひとつ考えやすい方法として、壁や天井等の各部位に【表2】の厚みの断熱材を入れればOK(実際は熱抵抗値が指標)という基準Bを設けました。鉄筋コンクリート造や木造、鉄骨造など構造によってそれぞれ指標がありますが、ここでは木造の住宅について述べます。

     【表2】 B [仕様基準] …断熱材の厚さはGW24-32K、
                 押出法ポリスチレンフォーム1種相当(ex.スタイロIB)
                 {  }内は枠組壁工法で必要厚さが異なる場合のみ表記、単位:mm

↓部位/地域の区分→

I

II

III

IV

V

VI

屋根 または

天井(どちらか)

265

230

185

160

185

160

185

160

185

160

185

160

135 { 145 }

90 { 9 5}

90 { 95 }

90 { 95 }

90 { 95 }

90 { 95 }

外気に接する床
(ex.ピロティ状)

210 { 170 }

210 { 170 }

135 { 125 }

135 { 125 }

135 { 125 }

--

その他の床(束立床)

135 { 125 }

135 { 125 }

135 { 125 }

90 { 80 }

80 { 90 }

--

土間床外周部

140

140

70

70

70

--

窓(代表的な仕様)

二重
(材質不問)
単板+複層

一重
(木orプラ)
低放射複層

二重
(木orプラ)
単板

一重
(アルミ遮熱)
複層

一重
(材質不問)
複層

 注:詳細は(財)住宅・建築省エネルギー機構発行『住宅の次世代省エネルギー基準と指針』参照

 例えば自然エネルギー研究所のある東京都・目白はIV地域。もしここに在来木造で長期優良住宅を建てようとすると屋根に断熱材を185ミリ(または天井に160ミリ)、壁90ミリ、基礎立ち上がりにスタイロフォームを70ミリ、窓には複層ガラスが必要というわけです。どうでしょうか? 天井に160ミリや複層ガラスはよいとして、壁に90ミリとすると真壁にしたいときはどうするの? また基礎に70ミリとは外壁やはき出し窓はどんな納まりにするの? なるべく安価な方法を考えたいところです。

 ちなみにVI地域(沖縄)は床や窓の断熱に基準が設けられていません。これは主に天井からの遮熱を目的としているからです。いずれの地域も屋根断熱は結構な厚さを求められています。関東以西では施工も含めて簡単に済まされることもあるようですが、建物の熱性能を考える上で屋根断熱は非常に重要です。

 このように省エネルギー基準は[性能基準]と[仕様基準]の2種類を並列に扱っていますが、では[仕様基準]を満たせば[性能基準]にも適合する家ができるのでしょうか? つまりAとBは同等なものなのでしょうか?

 答はNoです。なぜなら同じ100m2の家で同じ断熱仕様にしたとしても、お豆腐のように真四角な2階建ての家もあれば、平屋で平面が凸凹して表面積率が高かったり、窓が特別に多かったり…といろんな家があり、それによってQ値は異なるからです。環境に配慮するという本来の目的からすれば[性能基準]で評価する方が適切といえますが、Q値の算出は手間がかかるので便宜を図るために[仕様基準]がある、と考えてよいでしょう。

 逆に考えると[性能基準]に適合すれば、必ずしも[仕様基準]を満たす必要はないといえます。その意味ではQ値で適合させる方が設計の自由度は高くなりますし、本来の目的にもより近づくことができるでしょう。必ずしも複層ガラスにしなくてもよいかもしれないし、真壁も可能かもしれません。またいくつかの工夫により基準値そのものを補正(=引上げ、緩和)することもできます。

 次回は、自然エネルギー研究所が開発したQ値を簡単に算出できるフリーソフト、『クリマテ』について解説しながら、具体的な建物のQ値を考察していきます。

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